

実際に購入して聴いてみたところ、解像度の高さには目を見張るものがある一方で、これまでのKZ特有の派手なドンシャリとは異なり、少し大人しめで、肝心のボーカルが一段奥に引っ込んで聞こえるような印象を受けました。
ネットの声を調べてみても、「駆動が難しく本領を発揮しにくい」「音が痩せたり低音がスカスカに聴こえる」など、鳴らし方に悩んでいるユーザーが少なくないようです。
このイヤホンも、適切な舞台を整えてあげれば、恐ろしいほど広いレンジ感を持つ美音系イヤホンへと化けてくれます。
というわけで、今回は、私が実際に環境を整えていく中で見つけた、KZ PRXのポテンシャルを限界まで引き出すための5つのテクニックをブログに書き留めておきたいと思います。
1. そもそも平面駆動(プラナー)は何が優れているのか?
一般的に、平面駆動方式には以下のような構造上のメリットがあると言われています。

• 圧倒的な解像度とフラットな特性: 薄膜の振動板全体に電線(コイル)が配置されており、面全体が同時に動くため、音の濁りやフラットさを損なう要因が根本的に少ないです。
• 優れた過渡特性(レスポンスの速さ): 振動板が非常に軽いため、音の立ち上がりと減衰(音の出だしと消え際)が極めてスピーディで、楽器やボーカルの粒立ちがクリアに聴こえます。
• 歪みが非常に少ない: 従来のダイナミック型で起こりやすい「分割振動(振動板の一部だけがたわんで歪む現象)」がほとんど発生しません。
• 自然で広い音場: 音が面から直線的に広がるため、平面磁界型ならではの開放感や、楽器の位置が分かりやすい優れた定位感を得られます。
一方で、この構造は「電気を音に変える効率(感度)」が著しく低いため、一般的なダイナミック型イヤホンの感覚で扱うと「鳴らしきれない」という罠に陥りやすい特徴があります。
2. KZ PRXの魅力を最大限に引き出す5つの手ほどき
① 外部DAC / ポータブルアンプの導入
平面駆動ドライバーをしっかりと駆動し、持ち前の解像度や低域のキレ、超高域の伸びを引き出すには、どうしてもパワーのある再生環境が必要です。
スマホやPCのイヤホンジャックへの直挿し(出力不足)では十分な音量が取れず、音が痩せて聴こえてしまいますが、出力に余裕のあるUSB-DACやポータブルアンプを挟むことで、この音痩せは劇的に改善します。私は、FOSI AUDIO SK02をPCとUSB接続して使用しています。
② リケーブルによるバランス接続
アンプを導入されたら、もし余裕があればぜひ4.4mmのバランス型ケーブルで運用することをお勧めします。
私の使用しているFOSI AUDIO SK02を例に挙げると、その出力の差は明らかです。
• 3.5mm アンバランス出力: 約 280mW
• 4.4mm バランス出力: 約 1100mW
このように数値で見ても圧倒的なパワーの差があり、バランス接続の潤沢な電力があって初めて、平面駆動の振動板が正確かつタイトにコントロールされるようになります。
③ イヤーピースのアップグレード(密着と広開口)
アンプ側のパワーを整えても、標準のイヤーピースのままでは、普段使っているモニター系ヘッドホンの音質とは明らかに帯域バランスが異質で、ボーカルが遠く埋もれがちになります。
イヤーピースはイヤホンのキャラクターを大きく変える極めて重要なピースですので、ここは慎重に選定したいところです。
今回は「音導管が短く、開口部(ボア)が広い」という物理的なアプローチを重視し、”得られる音質”と”投じるコスト”の二軸評価から、最終的に「TRI Clarion」が最良であるという結論に至りました。

• サイズ選びのポイント:
このイヤーピースの恩恵を100%受けるための最大のポイントは、自分の耳孔に完全に密着するサイズを選ぶことです(私の場合は普段のMからワンサイズアップしたLサイズが最適でした)。もし隙間ができて密閉が甘くなると、低音域の再生能力が著しく悪化して音がスカスカになってしまいます。完全な密着を確保して初めて、広開口ホーン形状による見通しの良い音場とボーカルの明確化が両立します。
④ 最終の味付けはイコライザー(EQ)補正
上記の①〜③の手順を踏むことで、土台の80%は手持ちのモニター系ヘッドホンと互角の音質まで引き上げることができますが、残りの20%はイコライザーを使って自分好みの特等席へ味付けをしていきます。
参考までに、下図はプレイヤーアプリ(AIMP)での私の現在のセッティングです。

重く沈み込むようなサブベースの迫力をしっかりと維持しつつ、主役であるボーカルの芯がグッと前に出し、目の前で歌っているような実在感を両立させるため、1.0kHz〜2.8kHz付近をほんの少し(最大1.5dBの範囲)補強しています。
また、PRXの特徴である高域の抜けの良さは、人によっては聴き疲れ(シャリつき)と表裏一体でもあるため、4.0kHz以上はフラットに戻し、ほんの少しだけ抑え気味に整えています。これはお好みで。
⑤ 焦らずにエージングをしましょう
平面駆動の振動板は非常に繊細なため、使い始めの数時間は少し音が硬い印象を受けました。
しかし、しばらく時間をかけて鳴らし込み(エージング)をしてあげることで、徐々に角がとれて滑らかな質感へと変化していくのを実感しています。
3. リファレンス音源による「答え合わせ」
この5つの舞台を整えた状態で、普段から基準にしている高音質ディスクをいくつか試聴してみました。
• SINNE EEG / 『THE BITTER END』
イントロのキックの「胴鳴り」の空気感が、破綻することなく綺麗に表現できています。
• Diana Krall / 『East of the Sun (And West of the Moon)』
音場の広さと中高域の刺さり具合をチェックするのに最適な曲ですが、結果は及第点です。ボーカルが少し遠く感じられる瞬間もありますが、不快なトゲがなく全く気になりません。
• Fourplay / 『101 Eastbound』
イントロのキックドラムの迫力(サブベース)とベースのタイトな輪郭が注目ポイントですが、こちらも破綻なく綺麗にドライブしてくれます。
• Orna / 『Nature Boy』
帯域が綺麗なピラミッド構成で気持ちよく聴けるかどうかがポイントですが、こちらも実に見事な「いい塩梅」のバランスで再現してくれました。
ノンEQ(あるいはごく微細なEQ)の物理環境だけで、ここまで美しく帯域バランスが整ったのは非常に興味深い体験でした。
4. まとめ

KZ PRX。もちろん、どんなにチューニングを追い込んでも、大きな空気の容積をコントロールするSennheiser HD 490 PROや、カスタマイズしたDENON AH-D5000のような、据え置き開放型ヘッドホンが持つ「音の肉厚さ」や「消えゆく美しい残響音」には物理構造上届きません。並べて聴けば、全体的に音が「薄い」と感じてしまうのは事実です。
しかし、イヤホン特有のキャラクターを理解し、手ほどき①~⑤でしっかりと舞台を整えてあげれば、実売5,000円前後のイヤホンとしては価格を遥かに超えた解像度と、バランスの取れた美音を再現してくれます。この「機材の限界値を使いこなしで引き出すプロセス」こそが、オーディオの楽しさではないでしょうか。
機会があれば、ぜひこの平面駆動型イヤホンのディープな世界をお楽しみください。
Enjoy!






































































































